自然の力が生きている天然醸造味噌
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店長日記
「手づくりみそキット」そして「角偉三郎展・後期」
今年も「手づくりみそキット」を販売できる見込みがたちました。あたりまえのようで、実は原料の確保が難しく、年明け早々たくさんのお問い合わせをいただきながら、明確なお答えができずに申し訳ございませんでしたが、やっと少しホッとしています。ご協力いただいた関係各位には心より感謝しております。

ただの、お金とモノとのやり取りだけではない、強い心の交流が感じられる商品だけに、ご支持をいただいていることも、本当にありがたく思います。毎年、商品の継続が危ぶまれてはいますが、そこを突き抜けられるエネルギーは、お客さま方からの熱いご要望のおかげです。今年もおいしいお味噌が育ちますようにとお祈りしております。

馬頭広重美術館併設の「JOZOCAFE/ギャルリ雪月花」では本日より「角偉三郎展・後期」を開催しております。「後期」というからには「前期」もあったのですが、昨年12月に開催した「そろそろ うるし」の会期途中から思いついて「角偉三郎展」を併催しました。そこで、沈金師時代の作品や漆絵なども含めて、きちんと「角偉三郎の世界」をご紹介したいと思いました。

ワインには、それぞれを一番おいしく飲ませるためのグラスが存在します。それを知ったとき、グラスによって香りの立ち方や味の広がりに大きな違いがあることに衝撃を受けました。それから、味噌汁をいちばんおいしく飲むための汁椀があるとすれば、そんなものだろうと、漆器を探す旅が始まりました。たどりついたところが角偉三郎さんの「座椀(くらわん)」でした。味噌汁を最後の一滴までおいしく飲ませる。そんな凄味さえ感じられるお椀でした。

今回、沈金師時代からの作品を並べてみて、改めて、とてつもない才能をお持ちだったことを思い知らされています。

知っていれば行きたかったところですが、昨年1月に京都で「角偉三郎の森」という展示会があったようです。その案内状は「角偉三郎という人生がありました。」というステキな言葉で始まっていました。深く理解し、愛した人だからこそ出た言葉だと思いました。そう、「角偉三郎という人生」だったのだと思います。今回の展示会で沈金師時代の作品を手に取り、それを深く感じました。

「漆の響き」という、文章があります。亡くなる前年に書かれた文章です。少しでも多くの皆さまに届きますよう、以下、ご紹介させていただきます。


漆の響き    角 偉三郎

漆(うるし)の器、私達の生活の道具として古くから親しんできた。

日常の器としてもご飯を盛り、味噌汁が入った。新年の正月には正座をしてお屠蘇を漆の器で受けた。男と女が結ばれる日、眼を合わせて漆の器で御神酒を交わして結婚の儀式を納めた。漆塗りされた「かたち」は注意して見ると多いのである。

うるしは漆の木から採集する。漆の木の皮面に刀で刻みを入れる。横一文字に入れる。内側から乳白色の漆液がゆるゆると滲む。空気に触れてすぐに茶黒くなろうとする。時間を得て固まる(乾く)。漆の木はその養分と水分を多く必要とするため、畑などの隅々に植えられている風景を思い出す。また漆はアジアに多く分布する。西はブータンから東は日本まで様々な表情をもつ文化群がある。

私の二十代は公募展に夢中だった。展覧会場に並ぶ漆の作品の多くはオブジェでありパネルの作であった。私もまたその中の一人だったのである。ある日突然のように思った。漆と言う素材を使いながらどうして手で触れることのない作ばかりをつくるのだろうか。なぜ漆を使うのだろうかわからなくなって展覧会の会場で立竦んでしまった。

漆とはなんだろうか、説明しがたい時を過ごすことになった。漆の木は様々な木の種類の中の漆の木である。私は木と向かい合っていた。漆とはなんだろうと立止まってから木とは何だろうと広がっていた。小さなこんもりとした森、鎮守の森である。また大木に締縄を張る、気持ちを奪われる。

私は器に向かっていた。両の手に納まるお椀を思った。しかしふたたび襲ってきた。自然の木を自分の自由にしていいのだろうか。

それから時がたって、今は職人さんと向かい合って、「かたち」へとつながる生活を選んだ。日常の器である。味噌汁も入る、丼物が入る、ラーメンも入る、両の手にそえて口唇に触れる。水がもたらす漆の樹液によって仕上がる器。自然の一部をこんなにも身近に共有するのである。繰り返し、繰り返し作る、日常の器とする、そして日常の器にこそ漆はふさわしく思うのであった。

ドイツのミュンヘンでの出来事は忘れがたい。小さな椀、小さな鉢、皿など日本での個展の風景とはあまり変わらない会場に、ある静かな一日、一組のご夫婦が入って来られた。画廊の人と何か話し込んでいる。漆の話しだろうか。朱塗の長手の重箱の前に立つ二人、熱心である。重箱の表を見て、横を斜めにすかすように見て、ひっくり返して見て、そして眼を閉じたのである。眼を閉じて重箱の表面をゆっくりさすっている。私は何をしているのだろうと、瞬間はそう思った。

重箱の漆の質感から伝わって来る響きを聞き取ろうとしている。受け止めようとしている、何かに届こうとしている、それは漆の素材から来る命の豊かさに届こうとしていたのではないだろうか。

              「ざぶん賞 2004年入賞作品・報告書」より
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